アデライトが望んだ通り翌年の春、エセルは奨学生として合格して王立学園に通い出した。
 エセルのような平民や下位で領地が遠方の貴族の為に、学生寮が用意されている。そこで暮らし、授業のノートや試験の内容を、エセルは綺麗にまとめてアデライトに送ってくれた。
 十二歳になった今も、エセルからの手紙と荷物は続いていて――授業に使っているミレーヌは、感心したように言った。

「エセルは本当に、お嬢様のお役に立ちたいのですね」
「嬉しいけれど、申し訳ないです。せっかく王都で、勉強しているのに……」
「平民で、しかも奨学生でしたらむしろ遊んだり出来ません。ですが、こうしてお嬢様の為にノートを作ることは、彼の勉強にもなっていますよ」
「本当ですか?」
「ええ。かつて王立学園に通っていた私が、保証します……もっとも私の場合は、お小遣い稼ぎの、ノート作りでしたけど。人に教えることは、本当に勉強になるんですよ」
「申し訳……」
「いいのですよ。あの時、勉強したからこそ今があるのですから」
「……はい」

 冗談めかした言葉だが、ミレーヌの家は彼女が在学中に没落したそうなので、切実だったのだろう。けれど、微笑んでキッパリと言い切ったミレーヌに、アデライトもそれ以上言わずに返事をした。

「エセルと言えば、来年の卒業後は新聞社で働くことが決まったそうですね」
「ええ、そうなんです。孤児院の先生達が、エセルは孤児達の希望なのだと言っていました」
「本当ですね。王都で勉強をして、そのまま仕事まで決まりましたから……失礼致しました。授業を、再開致しましょう」
「はい」

 ミレーヌも勉強を教えていたので、エセルのことを語る声音は優しい。けれど、今はアデライトの授業中なのでそこで話を締め括った。
 アデライトも、一回目では王立学園の授業を受けている。しかし巻き戻り、授業を受けてから数年が経っていたので素直にありがたいし、エセルから一緒に届く手紙も楽しかった。狙った通り、嫌いだからこそ気になるのかサブリナの噂話が、結構な頻度で書かれている。

(サブリナはドレスをリカルドや親にねだっている、か……リカルドは未成年だから婚約者の為とは言え、そう何枚もは買えないだろうし。ロイド伯爵は財務大臣に就任し、陞爵したから? でも、もしかしたら……)

 一回目の時、自分や父は冤罪だったが――もしかしたらリカルドが唆し、サブリナやロイド伯爵は本当に王室助成金に手を付けたのかもしれない。

「面白いように、踊ってくれるね」

 今まで黙ってアデライト達の授業を宙に浮いて眺めていたノヴァーリスが、アデライトの耳元に顔を近づけて言う。

「ええ、本当に」

 ノヴァーリスへの返事は、他の者には聞こえない。
 だからこそ、アデライトはそう答えてひっそりと微笑んだ。