鴻巣さんが、少し早めに姫野に来たことに驚く。
どうしても外せない用があるようで、早めに来たと言っていた。

報告に来た鴻巣さんは、澤田は組員を半分連れてくると言っていた。

もう半分は、清宮、川城、神子芝と配置している。

満里奈のところには、自分が行けば他は必要ないと鴻巣さんが手を回してくれたみたいで少し安心した。

「ねぇ、鴻巣さん?」

「はい、何でしょうか?」

「…澤田は、いつから母を好いていたの?」

私の質問に、表情は崩さなくとも、身体が少し反応した。

何か知っている…。

「父の休息の部屋から、こんな紙が出てきたの。」

『澤田が凌佳を手に入れられず、逆上して狙っている。』

その紙を見た鴻巣さんは、深呼吸して私にゆっくりと話し始めた。

「澤田は、功希様と凌佳様が出会われた頃から好いておられました。ですが、当時立ち上げた白龍で凌佳様をお守りしていました。」

ですが、歯切れ悪く続ける鴻巣さん。

「10年前、凌佳様が亡くなられてから少しずつおかしくなっていきました。澤田の精神は、凌佳様で成り立っていました。」

「母は居ないのに、どうやって精神を保ってたの?」

「…、分かりません…。」

鴻巣さんは、何かを言おうとしていたが、言葉を続けず、否定の言葉を出した。

鴻巣さんは、確実に"何か"を知っている…。

いや…、隠してるが正しい。

私にも言えない重大なこと?

「澤田は、母がいない今、何をしようとしてるのかしら…。」

「私から申し上げられることは、澤田は何をするか分からない状況です。現に、潜入してはいるものの、澤田組の組員である私ですら手がつけられない状況になることもあります。」

気を付けてください。
今の澤田は、組員にですら手をあげています。

自分の組員にまで!?
何て人…。

鴻巣は、私に書類を渡す。

「こちらは、人身売買の顧客リストの毎月の契約日が記されています。丁重にお扱いを。私から有馬さんには報告済みです。近々動いてくれるはずです。」

そう言って鴻巣は、この部屋を後にした。