姫野で話を聞いて帰宅した次の日。
外に出ることができた私は、荒れることなく、過ごせていた。
「ただ、いつ何が起こってもおかしくないよね…。」
優杏さんには、一週間後に戻った方がいいかもって言われたけど…。
私自身いつかは戻らなきゃって思ったけど…。
長く清宮に居すぎたのね。
甘えすぎてたのね。
だから、離れがたい…。
「わからないように、身辺整理していかないとな。」
ふと、スマホが鳴っていることに気がつく。
満里奈だ。
やばい…学校にも連絡いれてなかった!
恐る恐る電話に出る。
怒られること承知で声を出す。
「もしも…。」
『体調大丈夫なの!?』
遮られた声に驚きながらも、怒ってないことにさらに驚く。
『ちょっと、聞いてるの?』
「あ、怒ってないの?」
『は?樹さんから、体調不良でしばらく休むって連絡あったから…。海の後あんなことがあったし…、』
私の言葉に呆れたように返すと思ったら、後半は申し訳ないような声色になっていた。
申し訳ない気持ちが、勢いよく押し寄せてくる。
幼い頃から、保護者がわりをしてくれている樹さん。
海での出来事を思いだし、自分で対処できなかったことに後悔する。
また迷惑かけてしまってる…。
『ま、元気ならいいの。学校にこれるようになったら連絡してね!』
その後も他愛のない会話をして、恋愛話にも花が咲き、気が付くと、電話が来てから2時間がたっていた。
またねと話して電話を切ると、メッセージが入っていることに気がつく。
ー莉依さん、体調はいかがですか?ゆっくり体を休めてくださいね。椿ー
2人の優しさに心が暖かくなる。
私が思いに耽っていると、またスマホが鳴る。
今日は連絡が続くな、と思いながら笑う。
「翔ちゃん?」
メッセージには、一週間後の25日に出掛けないかという連絡。
その日は私の19歳の誕生日。
そして、姫野に戻る日…。
「別れがたくなるな。」
でも一緒に出掛けたい気持ちが勝り、承諾した。
幼い頃から清宮で、嬉しいときも悲しいときも、全てここで過ごしてきた。
そして、翔ちゃんを好きになった。
翔ちゃんの素っ気ないけど、優しい姿に惹かれてしまったのだ。
「長い長い片思い…か。」
それも後一週間で断ち切らないといけない。
姫野に戻るということはそういうことだ。
組長に就任するということは、組の皆を守るも当然。
恋などなうつつをつかせる暇はない。
でも、幼い頃から育った大きな恋心は、簡単には消せない。
時間がかかるとわかっているが、消さないとー…。