マニエルは息を呑んだ。

──遂にこの時が来てしまったのね。

 マニエルは拳をぎゅっと握った。

 事の発端は、ひと月程前のこと。三日三晩も続いた大嵐が終わったと思ったら、ルーエンが険しい表情で突然マニエルの元を訪れ、花畑で見たことを全部教えろと言い出したのだ。
 いつもの温和な様子はなく、眉間に皺が寄り、厳しい表情をしていた。

 そこでマニエルは悟ったのだ。猫の姿を借りて王宮に出入りし、しかもルーエンの膝の上を陣取っていたことが遂にバレたのだと。そして、そのせいで、ルーエンを怒らせたのだと。

 マニエルから話を聞き終えたルーエンは飛ぶように転移魔法で一瞬で掻き消えた。バレてしまった以上、猫の姿で会いに行くこともできず、それ以来マニエルはルーエンと会っていない。

 今日は婚約破棄の話だろう。マニエルはそう覚悟を決め、スッと顔を上げた。

「ルーエン様にお会いする前に、少しお化粧を直してくれる?」
「もちろんですわ」

 侍女はにこりと微笑み、マニエルの化粧を直し始める。愛しい人と向き合うのも今日が最後。最後ぐらい最高の自分を見せたかった。