「嘘ではない。国一番の聖魔術師である俺が治療したが、あれ以上の治癒は無理だ」

 無言でこちらを見つめていたエクリードが、スーリアに言い聞かせるようにゆっくりとそう言った。スーリアはキッとエクリードを睨み付けた。

「あなた、私に聖魔術師だって嘘をついたわね」

 スーリアに睨まれて、エクリードは不敵に笑みを洩らす。
 
「俺は聖魔術師だ。嘘ではないだろう? まぁ、なんともアルらしい決断だな」
「リアちゃん。アルはリアちゃんにかっこ悪いところを見せたく無いんだよ。腕が使えなくなった騎士の行く末なんて、楽しいもんじゃ無い。だから、あいつのこと許してやってくれないかな?」

 ルーエンは眉尻を下げて、スーリアを見た。スーリアは暫く視線を彷徨わせてから、意を決したようにルーエンを見上げた。

「嫌よ。絶対に許さないわ」
「リアちゃん……」
「アルは私を繋ぎ止めておく役目なんでしょう? 今さらその役目を投げ出すなんて、許さないわ。あんなに毎日手紙を送りつけてきて、花を持ってきて、最後には優しく名を呼んで触れてきて──全部が私を愛してるって言ってる。だから、こんな中途半端にやめるなんて許さない」

 今度はルーエンが息を飲んだ。真っ直ぐに見上げるスーリアの目は真剣そのものだ。淡い緑の瞳は息吹く新緑のような力強さがあった。
 ルーエンは正直驚いた。ただの大人しい少女だと思っていたのに、こんな意志の強さを持っていたなんて予想していなかったのだ。