しかし、十数年前より歪みが至る所に発生し始め、元々人数の少ない聖魔法を使える魔術師達の努力も虚しく浄化が全く間に合わない状況が続いている。迷い込んだ魔獣の餌食となったり、誤ってあちらに迷い込んで神隠しとなるものの被害が多数発生していた。
 困り果てた人々は救いを求めて今日も神に祈りを捧げた。彼らの世界を造った慈愛に満ちた美しい女神に、どうか彼らに救いの手を差し伸べて欲しいと。

「姉さん、シュウユ様は私達を助けて下さるかしら?」

 祈りを捧げ終えた少女は淡い緑の瞳で一緒に神殿を訪れた姉をみつめた。
 ピンク色の髪がほつれてひと房だけ肩に落ちている。

「きっと助けて下さるわ。シュウユ様はとても慈愛に満ちた美しい女神様なのだから」

 問いかけられた女性は少女を見つめて頬笑んだ。それを聞いた少女は安心したように表情を綻ばせると、祭壇に目を向けた。
 たくさんの花が飾られた祭壇で美しく頬笑むのはこの世界の創造の女神──シュウユ。優しくこちらを見下ろす瞳は慈愛に満ち、口元は優しい微笑みを浮かべている。

 ──女神さま、どうか私達の世界を助けて下さい。

 薄緑の目を閉じると、少女はもう一度、神に祈りを捧げた。