エクリードがいう舞踏会とは、国王陛下主催の王宮で開催される舞踏会だ。
 年に一度だけ行われる大規模なもので、国内の主要貴族たちが招待される。

 アルフォークの実家も伯爵家なので招待されているが、そこには兄夫婦が行く予定だった。ところが、兄夫婦に領地に戻る用事が出来てしまい、急遽アルフォークが代理として参加することになった。
 兄夫婦は次期伯爵であり、領地経営が重要なのもアルフォークは理解している。それならばと引き受けはしたが、気は進まないままだ。

 アルフォークには舞踏会にいい思い出がない。
 いい思い出がないどころか、悪い思い出しかない。
 きたる舞踏会の日を思い、アルフォークははぁっと深くため息をついた。

「アル。このパンは味は悪くないが固すぎる」
 
 パンを食べ終えたエクリードは顎を摩りながらアルフォークに苦言を呈した。あまりの固さに顎が痛くなったようだ。アルフォークはムッとしたように口を尖らせた。