「それは駄目だ! 智樹が入院していた時のやつだ!」
「別にいいじゃないか、俺に宛てたなら俺が読むべきだろう」

 美利は智樹から強引に手紙を奪い取り、穴の中に残していた自分の手紙も抜き取った。

「僕のじゃない手紙がある」

 自分では選ばない便箋を見つけて中を見てみようかとも思ったが思いとどまり穴に戻した。

「俺たち以外にもここを使っている後輩が居るんだな」

 智樹は空を見上げた。

「でも流石にこの季節にここを使おうと思う奴らは俺たちくらいか」

「制服でここに座り込むとか、学生時代の自分が信じられないよ。
 もう寒くてどこかのお店で暖まりたいくらいだ」

 学生は怖いもの知らずだよな、と言って智樹が笑った。


「そうだ」

 智樹は小さくつぶやくと持っていたカバンから折りたたんだ紙を美利に渡す。

 何? と言いながら開いて中に書いてあるものをすぐに読もうとする美利に『もう読むの?』と焦る智樹。

「わかったよ、後で読むよ」

 と笑った。