美利も声のしたほうへ視線を向けると、一人の女子生徒が大げさに両手で自分の口をふさいでいた。

 顧問は彼女にあからさまな睨みを利かせると再度部活の指導へ注意を向けていった。

「もしかして、そこに居るの栗岡さんですか?」

 顧問の先生に睨まれて少しだけ委縮した彼女はかろうじて美利に聞こえる声量で声をかけてきた。

 急に自分の名前を呼ばれた美利は戸惑いながらも返事を返す。

「栗岡だけど…」

 そっけない美利の返事にも怯まず弾丸のように話し始める女子生徒。

「やっぱり? 中学の時見てましたよ! すごいですよね、あの素早さ! 二人抜きなんて九十九%の成功率ですよね! やっぱり高校に入ってからもバスケ部なんですね!」

 黙々とトレーニングをする先輩たちの中で彼女の声が響き渡る。

 あまりの喋りっぷりを多少なりとも迷惑に感じて顔をそむける。

 それでも一人で喋り続ける彼女を横目に智樹が美利へ声をかける。

「くー、あいつ知り合い?」
 一緒にされたくない。そう思いながら肩をすくめ、
「知らん」
 と答える。


 美利があまりにも不愛想だったのか諦めた彼女は大人しくバスケ部の練習を見始めたが、遅れて体育館に入ってきた別の女性とこそこそと話し始めて『えー?!本当?!』など騒ぎ始めた。

 真面目に練習を見学しようと集中し始めていた美利の元へその二人が近付いてくる。

「中体連見に行ってたんです、栗岡さんのプレーが凄くて感動しちゃって、中三からバスケット始めたんです!」

 『ねぇねぇ、握手してもらおうよ』

 そんなことを言い出した二人を見て美利と智樹はいい加減うんざりして体育館を後にした。