智樹が意識を取り戻してから三週間程が経っていた。

 大学での新しく始まった授業も身に入らない。


 智樹の記憶はまだ戻らない――。



 その日は講義もなく朝から夕方までのんびりとした一日を過ごしている美利。

 何にも干渉したくない。

 誰にも干渉されたくない。

 そんな一日だ。


「ピリリリリリリ…」

 小さい音を立てながら携帯電話が揺れる。
 ディスプレイには和巳の文字が。

 携帯を手に取り『電話か…』と少し憂いながら通話ボタンを押す。

 耳に当てると、
『よう、元気か?』

 と、和巳の声が聞こえてきた。