仮面をつけて真っ白な顔になったクルミの行動は早かった。


素早くドアを開けて廊下を確認し、誰もいないことがわかると足音を殺して玄関まで向かう。


警備会社へ通じているスイッチを切り、鍵を開けて外に出るまでほんの数分間だった。


本来のクルミだったら部屋に出るだけでも何十分も迷っていたに違いない。


それからクルミは裏手に回り、そこに常備してある灯油缶へ視線を向けた。


もちろんクルミ本人が風呂やストーブに灯油を入れたことは1度もない。


しかし、そこに灯油があることは知っていた。


お手伝いさんの仕事を見ていたら、どうやって缶の蓋を開けるのかもわかっている。


クルミの心臓は早鐘を打ち始め、緊張で背中に汗が流れていく。


しかし、手足は勝手に動き続けていた。


灯油缶へ近づき、その蓋を開ける。


持ち上げようとしてその重さに一瞬ひるんでしまった。


こんなに重たいものを持っていたの!?


女性のお手伝いさんがこれを両手で持って運んでいた光景を思い出し、クルミは目を見開いた。


こんなに大変な作業をしているとは夢にも思っていなかったのだ。