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クルミが家に戻ったとき、外から消防車のサイレンが聞こえてきた。


それがどこへ向かっているのか、クルミは興味のないフリをするので精一杯だ。


「どうした食欲がないのか?」


父親にそう聞かれてクルミはハッと我に返った。


クルミは今食卓についていて、目の前に出されている肉料理に少しも手を伸ばしていなかったのだ。


「ううん、そんなことは――」


そう言って肉に手を出そうとするが、頭の中は空き家での出来事がグルグルと繰り返し再生されている。


あの仮面は本物だった。


そして自分はどうやら放火の才能を手に入れることができたらしい。


そう思うととてもご飯なんて喉を通らなかった。


こんなこと誰にも言えない。


言うつもりもない。


「やっぱり、今日は少し体調がよくないみたいだから、横になるね」


クルミはそういって席を立つ。


両親に背中を向けてダイニングから出るクルミの顔には、笑顔が浮かんでいたのだった。