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なにも変わらない翌日がやってきてしまった。


お手伝いさんに起こされたクルミはすでに準備されている制服に着替え、髪の毛を整えてキッチンへ向かった。


父親の朝は早くて、その姿はすでにない。


しかし、父親が食卓にいないだけでクルミの気持ちは随分と楽になる。


普段の食事では呼吸もできないくらいに重苦しさを感じるときがあり、そういうときは決まって父親の仕事がうまくいっていないときだった。


そういうときにクルミが気分を変えようとして話かけると、『食事は黙ってしろ』と、一括されてしまう。


助けを求めるように母親へ視線を向けて見ても、母親はまるでクルミに関心を示さなかった。


母親の関心があるのは父親のお金と宝石ばかりだ。


「昨日みたいなことはもう言わないで」


朝食を食べ始めたとき、母親がそう声をかけてきた。


母親からクルミに話かけてくることは珍しいので、クルミは一瞬動きをとめて目を丸くして母親を見つめた。


「ほら、部活とかなんとか。クルミがそういうことをいうと、あの人すぐに不機嫌になるんだから」


母親は面倒くさいとでもいいたげに言葉を続ける。


「ごめんなさい」


自分が悪いことをしたとは思っていないが、クルミはつい謝ってしまった。


母親はその言葉を聞くと満足そうに微笑んで、再び食事に集中したのだった。