このデジタルカメラは自分の宝物だ。


あのクソ店長からの嫌味を半年間耐え続けて、ようやく手に入れたものなんだ。


恵一は咄嗟にその場にうずくまって丸まった。


「おい、出せよカメラ!」


大田が恵一のわき腹を足先で蹴ってくる。


とても弱い力だけれど、守るものがないわき腹を蹴られるとダイレクトに内臓に響く。


恵一は低い声を上げて痛みを耐え、しかし顔は決してあげなかった。


大田の仁王のような顔を見ると自分がデジタルカメラを渡してしまいそうだったからだ。


「おかしいだろお前! 自分がなにやってんのかわかってんのかよ!」


大田は正義を振りかざして恵一のわき腹を蹴り続ける。


その力は次第に強くなってきて、恵一は痛みで常に顔をゆがめていないといけなくなった。


でも渡さない。


このデジカメだけは、絶対に。


歯を食いしばって痛みを絶えていると、ホームルームが始まるチャイムが鳴り始めた。


そのチャイムをきっかけに大田の動きが止まった。


「チッ」


軽い舌打ちと共に、B組の中へと入っていく気配がする。


その気配が完全に通り過ぎるのを待って、恵一はようやく顔を上げた。


「なにをしているの?」


そこには担任の女性教師が立っていて、まるで汚いものでも見るような視線を恵一へ向けていたのだった。