食べ物を自分で作る時間があるなら勉強をしろ。


勉強道具が可愛くある必要はない。


お金持ちのお嬢様として生まれたクルミをうらやむ人は多いが、クルミはなにひとつ持っていないも同然の生活をしていた。


だから、自分の夢に向かって突き進んでいるリナを見るとイライラした。


リナの家には父親がいなくて、弟と妹の面倒もあって大変だとわかっていながら、嫌味を言ってしまう。


「もしかしてそれ、縫ってるの?」


体育の授業の前、リナが持っている体操着袋にハートのアップリケがついていることに気がつき、クルミは言った。


振り向いたリナへ向けて粘ついた笑みを向ける。


自分がひどいことをしていると理解できている。


それでもリナに嫌味を向けることをやめることができない。


家に戻れば両親やお手伝いさん、更には専用の家庭教師からの監視がついているクルミにとってストレス発散の場所は学校しかなかった。


リナの表情が一瞬険しくなる。


いつも笑顔でいい子ぶっているリナが、クルミの前だけではその表情を崩す。


その瞬間が、クルミはたまらなく好きだった。


別にリナの夢を邪魔するつもりはない。


しかし、いらだつ気持ちはリナにしか向けることができない。


羨望とやっかみがない交ぜになったどす黒い感情が自分の中に存在していることを知っている。