「そう。困ったね」


リナは眉を寄せて答える。


本当はそこまで困っていないけれど、苦情さんがせっかく知らせてくれたので深刻そうな表情をしなければならない。


南部君が自分を盗撮していることは知っていた。


彼がアイドルオタクであることも、地元のイベントに参加したとき必ず見に来ていることも。


イベントのときに手売りするグループのプロマイドや、簡単な装丁で作られた写真集も買ってくれているのを見たことがある。


でも、リナはそれを気がつかないフリをしてあげているのだ。


イベントに来ても直接リナに話かけてくることはないし、同じクラスなのに話たこともない。


そんな南部君の気持ちを察して、自分との接点を隠してあげている。


もちろん盗撮はよくないことだけれど、南部君がこっそりこちらへカメラを向けているとき、リナは自然と表情を作り、ポーズを決めていた。


だからちゃんと写真に残されていいものを撮らせてあげているのだ。


南部君がそのことに気がついている様子はないけれど。


そう思うとリナは1人の男を手のひらで転がしているような気持ちになり、とても気分がいい。