使い道はなさそうなのに、その仮面にはどうしても惹かれるものがあった。


一体なんなんだろう?


惹かれる正体を知りたくて恵一は自分の顔に仮面を近づけた。


仮面は天気のいい日に干された布団のような臭いがする。


そのまま顔につけてみると肌に密着する感覚があった。


ツルリとした表面がピッタリと吸い付いて、太陽の香りを間近に感じる。


恵一は少し混乱しながらも仮面から手を離した。


この仮面は耳や頭にゴムをかけなくてもいいのか。


そう思った次の瞬間だった。


自分の両手が手早く制服を脱ぎ始めた。


家に戻ったのだから着替えはしないといけないが、それは恵一が今望んでしていることではなかった。


恵一の両手は勝手に制服を脱ぐとクローゼットの中で一番地味な服を選んでいた。


強制的に着替えをさせられる形になった恵一は、悲鳴を上げようとする。


しかし悲鳴は喉の奥に張り付き、乾いた空気しかでてこなかった。


続いて自分の右手が制服のポケットからデジタルカメラを取り出すのを見た。


そして自分の意思に関係なく部屋と飛び出していく。


なんだよこれ、どうなってんだよ!?


疑問は口に出てくる前に消えていく。


まるで誰かにそうされているように、恵一は自分の足で近所の家の裏手へと回っていた。