だけど恵一の体はドアを開けるという動作を記憶していて、ノブを回したあとはドアを押すだけだった。


ギィとかすかな音を立てて屋上へ続くドアが開いていく。


最初に灰色のコンクリートが視界入った。


その上に広がる青空。


次に奥に諸水槽。


「開いた……」


恵一は目を見開いて呟き、そっと屋上へ足を踏み出した。


どうして鍵が開いていたのか、今は考えないことにする。


とにかく屋上にでると周囲を見回してみた。


1年生のときにクラス写真をここで撮影したことがあるが、その時以来だった。


7月の爽やかな風が恵一の短い髪の毛を揺らして行く。


屋上はとくに代わり映えしない様子だった。


人の気配はなく、白いフェンスは随分とはげて薄汚れ、なんだかここにいるだけで死にたくなるような光景。


もっともそれは恵一の心を反映しているから、別の人から見ればまた別の風景として捉えられたことだろう。


とにかく恵一からみればここは最終段階に差し掛かった人間が来る場所だった。


たとえば壮絶なイジメに遭っているとか、とても生きてはいけないことが起こってしまったとか。


そういう人たちがあつまり、あの薄汚れたフェンスをよじ登っていく場所。


「戻ろう」


恵一はぽつりと呟いた。


そもすれば自分がそのフェンスによじ登ってしまいそうな恐怖感を覚えたからだ。