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「はぁ……はぁ……はぁ……」


真夜中の道を光平は荒い息を吐きながら歩いていた。


衣類はボロボロで顔は浅黒く疲れきっているし、足は今にも倒れこんでしまいそうなほど弱弱しくしか前に出ない。


それでも光平はなにかに操られているように歩く。


手に血のこびりついたハンマーを握り締めて。


その時外灯に照らされて浮かび上がるサラリーマンの後姿が見えた。


途端に光平の足は速くなり、サラリーマンとの距離を縮め始めた。


サラリーマンの真後ろへやってきたとき、光平はハンマーを持っている右手を振り上げ、そして躊躇なく振り下ろした。


ゴッ! と鈍い音が聞こえてきて、サラリーマンは声も上げずに倒れこむ。


光平は倒れたサラリーマンの顔めがけて、2度、3度とハンマーを振り下ろした。


その腕は今にも引きちぎれてしまいそうなくらい力が入っていない。


それでもハンマーを手放すことも、殺人をやめることもできなかった。


「もう……やめてくれ」


顔のつぶれたサラリーマンを見下ろして呟く。


通行人の姿はなく、これでもう今日の殺人は終わりだという安堵の気持ちが浮かんでくる。