大きな生垣に囲まれて家の様子はよく見えない。


バシャバシャと水音が聞こえてきた気がして、恵一は一旦足を止めて耳を済ませた。


水音はもう聞こえてこない。


気のせいか?


生垣の背が低くなった場所から中をのぞいてみると、リナの背中が勝手口から中へと入っていくのが見えた。


リナ!


思わず声をかけそうになったが、裏庭に別の人影を見かけて慌てて身をかがめた。


リナ以外の人影。


それはクルミだった。


クルミは持っていた青いタンクを地面に置くと、点火棒を取り出した。


スイッチを押すと先端からオレンジ色の炎が上がる。


クルミの顔が照らし出され、その顔は奇妙に笑っていることに気がついた。


一瞬恵一の体に寒気が走った。


あんな顔のクルミを学校内ではみたことがなかった。


恵一がなにもできずにただ見つめている間に、クルミは火をつけた状態で身をかがめた。


途端に炎が燃え上がった。


「うわっ!?」


恵一は低い悲鳴を上げて路地横へと逃げ込んだ。