「……大安リビング公司の件も、実は変だと思った。あの時、現地の裏家業組織が、大安リビング公司の獲得に動いてたのよ。それが、気づいたら榮西が奪ってた。私のために危ない連中と話をつけたの?」
「あれこそ、お話しただけだよ。むしろ、今は友好的な関係だと思うけど」
「この前、台湾の路地裏で絡まれたときも、余裕綽綽だったのはそういう理由ね」

私はふーとため息をついた。これも言っておかなければならない。たぶん一番大事な部分で、言わなければ始まらない。
風雅のためにも、私自身のためにも。

「私ね、風雅のこと結構好きだわ」

言葉にするととても呆気ない。だけど、ものすごく素直な気持ちだった。
「希帆」と風雅が私を呼ぶので、見上げて微笑んだ。

「風雅に相応しくないって言われたら、無性に悔しくて。なんで悔しいのかなって考えたら、私以上に風雅の面倒見られる女って他にいないんじゃないかって自負だったのよね」

姉と弟みたいな感覚ではあった。
だけど、風雅を他の女に譲ると考えたら嫌だ。妻に相応しくないなんて言われたら悔しい。
風雅の特別は私だけでいいし、私の特別も風雅だけでいい。これを愛と呼んでいいなら、私は確かに風雅が好きなのだ。

「風雅が大企業のトップになる男なのは高校から知ってたし、人たらしのふりした根っからの支配者気質なのも知ってた。今更、風雅の薄暗くて怖い部分を知っても『それで?』って感じよ。風雅らしい」
「俺のこと嫌じゃないの?」
「嫌だとしたら、へらへら笑って中身がよく見えないところじゃない? 前も言ったけど、私の前だと、とにかく笑顔だよね。もっと、感情見せていいよ。奥さんでしょ、私は」