「優雅さんの言う通り、何も知らないお嬢さんに私がなればいい? にこにこ笑って毎日風雅をお出迎えして、文句も言わず心配もせず、風雅の仕事や風雅の世界には興味を持たないでいようか? そんなふうにもできるよ」
「そんなの希帆じゃないでしょ、もう」

風雅がおかしそうに笑った。

「俺は、元気で明るくて怒りん坊で、生きる力に溢れてる希帆を好きになったんだ。希帆が生きて笑っていてくれるだけでいい。きみのいる場所は光あふれる日向で、俺のいる場所は半分以上真っ暗。俺のものにしちゃいけないってどこかで思ってた。だから希帆が別れたいって言うなら……」
「あのね」

私は思い切って風雅の右手を取った。左手で指と指を組み合わせて繋ぐ。

「風雅がやばい男だなんて、私とっくに知ってるけど」

風雅が私を見下ろす。きょとんと目を見開いている。

「高校の時、私を怪我させた子を自主退学させようとしたでしょう? あれが最初に『この男やばい』って思った件ね。高校時代、他にも私に嫌がらせしてた子たちがいたけど、卒業までにはみんな静かになってた。あれも風雅だよね」
「脅したりはしてないよ。会ってお話しただけ」
「そういうところよ。言葉で他人をコントロールするのが異常に上手い。笑顔で丸め込んで学校中支配してたの、自覚あるんでしょう? 今は実際に権力もあるから余計厄介だわ」

今まで敢えて言葉にしてこなかった部分を遠慮なく言う。
だって、風雅がその部分を引け目に感じているなら、それは無駄な気遣いだ。私は風雅の危険なところを充分に知っている。