「風雅、さっきのは……」
「ああ、あれは営業第五グループのチームリーダー。良くない筋の連中に、うちの顧客名簿を流してたんだ。第五グループはそのおかげで結構利益出してたんだけど、榮西はクリーンな会社だからね。ああいうことされちゃうと困るんだよ。悪い連中がうちの内部に入り込もうとすることが結構あってさぁ」

風雅の口調は軽い。世間話でもしているみたいだ。

「裏切者は見せしめにしないといけないからね。泳がせてあぶり出して、追い込んで逃げ場を無くして、今日放逐してやった。あの男はもう何もないよ。金も家族も、全部俺がとりあげた。これからは社会の隅で俺を恨んで生きていく」

ああ、風雅にはそれができる。能力も権力もある。
私を傷つけた同級生を躊躇なく退学させようとした風雅。やはり本性の部分は何も変わっていないのだ。
「重たい話、しちゃったね」と風雅が悪びれる様子もなく言い、優雅さんを見やる。

「優雅ぁ、せっかく入籍までこぎつけたのに、希帆に俺のやなところ見せるとかさぁ。そんなに俺、結婚しちゃ駄目?」
「僕のお薦めの女性を選んでいただきたいとは以前から言っています。何も知らず独立心もない、世間知らずの令嬢をお迎えすればいい。兄さんの子どもをたくさん産み、一歩下がって夫を立て、笑顔で家庭を守ってくれる女性です。僕の方でいくらでも選定しますよ」
「古風な趣味だねー。俺の趣味は希帆なんだけどなあ。かれこれ十年以上、希帆だけが好きだった」

風雅がどこか懐かしむような口調で言い、ようやく私に視線を戻した。

「希帆、俺のこと怖くなった?」
「風雅……」
「ま、いいや。デートしよう。あんまり長くは連れまわさないから」

風雅はずっと笑顔だったけれど、その横顔は色々なことを諦めようとしているように見えた。