仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~

『一度裏切ったやつは何度でも裏切るんだよ。俺は信じない。おまえに居場所はあげない』

男が掴みかかるのが見え、私は息を呑んだ。届かないのに、モニターに駆け寄ってしまう。
しかし次に見たのは、風雅が男の身体をいなし、床に引き倒し制圧する光景だった。台湾で男たちを圧倒したときと同じ鮮やかな手際だ。

『血の気が多いね。おまえはやっぱ榮西にはいらないや』

言い捨てる風雅は、支配者の顔をしていた。榮西のトップの顔というより、下等な生き物を見下ろす生物の王の顔をしていた。

「……これが兄です」

優雅さんが口を開く。

「榮西のため、どこまでも冷徹になれる男。希帆さんには見せたことのない一面でしょう」
「優雅さん、この光景を見せたかったんですか」

私の剣呑な問いに、優雅さんが目を細めて蠱惑的に微笑んだ。

「もともと、榮西は反社会組織と仲の良かった時期がありましてね。まあ、戦後間もなくの頃で、当時はそれも普通のことでした。でも、もう何十年も前に手を切っています。今や彼らは商売敵でもありましてね。榮西を食らおうと機会を窺っている」

風雅の言葉が浮かぶ。『敵には大チャンス』『内からも外からも崩しやすい時』それはこのことだったのか。

「さらには穏健政策を取った父の影響もあり、榮西内部に左門一族を引きずり下ろしたい者もいます。こういったことはまあ日常茶飯事で」

優雅さんの視線はモニターのまま。会議室では、暴漢としてとらえられた男が、風雅の部下によって室外に引きずり出されている様子が映っていた。
風雅はわめく男にはもう興味がない様子で、スーツのジャケットについたほこりを払っている。