その晩はトラブルこそあったものの、良い夜だった。
私たちは夜市を歩きまわり、食事を取り、別れた。私の長く住んだ街を風雅に紹介でき嬉しかったし、何より風雅がいきいきと楽しそうだったのがよかった。良くも悪くも自由人の風雅も、日本にいれば責任ある立場だ。大人になってから、こんなふうに無邪気にひたすら楽しんでいる顔を見ることはなかったように思う。

「希帆」

帰りの飛行機は風雅が勝手にビジネスクラスに変更してしまったので、私たちは隣同士の席だった。確かにエコノミーだと風雅にはちょっと狭いから仕方ない。

「また台湾に行くとき、俺も一緒に行きたいな」

眠ってしまおうとアイマスクを装着しかけていた私は、アイマスクをはずし、風雅を見つめる。昨夜の楽しそうだった風雅が浮かんだ。

「いいわよ。まだ美味しい店、たくさんあるし」
「やった」

風雅が嬉しそうに言い、眠る体勢に入った私の手をぎゅっと握った。

「本当はね、希帆が『やっぱり帰らない』って言うんじゃないかって不安だった」
「……だから迎えにきたの? 馬鹿ね」
「うん、馬鹿だったなあ。おかえり希帆」

私は風雅の手をぎゅうっと握り返した。
私なりにあなたが大事だって、伝わっていると思う。