「風雅と仲良く、幸せに生活できるよう、努力する。あ、ええと、今日まで育ててくれてありがとう。左門家に嫁ぎ、良き妻としていっそう励むつもりです」

両親が私の言葉に納得したかはわからない。これでも国外脱出するまでは、優等生の自慢の娘だったんだけど……。

「幸せにね、希帆」

両親は最後には笑顔で私たちを送りだしてくれた。たぶん、娘を嫁に出すときの模範的な笑顔で。



代々木にあるマンションが私と風雅がふたりで暮らす新居だった。
そびえ立つ新築のタワーマンションはいったいおいくら万円なのかしら。この男の財力からしたらめちゃくちゃ普通のことなんだけれど、どっちかというと庶民寄りの私は圧倒されてしまう。

玄関を入り、広々としたリビングを見渡せばため息しか出ない。絵に描いたようなセレブの部屋! 内装では私もこういったお部屋をいくつもデザインしてきたけれど、自分で住むとなると見方が「お金かかってるなあ」というものになってしまう。

「俺は先月引っ越してきたよ。景色もいいし、便利なところだよ。繁華街も道路も近いけど、思ったよりうるさくないのがいいね」
「そりゃ、これだけ高ければね」

風雅は私の手を引き、あっちこっちと新居を案内し始める。ここがキッチン、ここがバスルーム。子どもみたいに楽しそうだ。