仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~

お父様の病室を後にした私たちは電車で都心部に戻り、私の行きたかったブックカフェとインテリアのお店を回った。
風雅はデートだと張り切っていたけれど、今までと特に何か変わるわけでもない。友人同士のお出かけだ。
風雅が予約した店へも散歩がてら電車で向かう。

「お父様、お加減よさそうでよかったわ」
「本人、気力はあるからなあ。医者が言うには、今すぐどうこうって話じゃないけど、五年先十年先はわからないって」

そんなの私たちもそうじゃない。医者って案外曖昧な言い方をするのね。そんなことを思っていたら、風雅には伝わったみたいだ。

「だから、俺たち焦って夫婦にならなくていいんだよ」
「焦る気ないし」

さすがに私もわかっている。結婚の形が私の思っていたものと違うからって、風雅を避ける理由にはならない。なにしろ、一般的な結婚は性愛を含み、生殖まで念頭においたものだもの。

たぶん、私が引っかかっているのは、風雅の本気度。
高校時代から十年ちょっと、ずっと私と悪友の距離にいた風雅が子どもと作ろう、夫婦になろうとすり寄ってきて、簡単に受け入れられない。さすがにからかいたくて入籍することはないけれど、夫婦というものに対する価値観は違いそう。クラスメイトとして意味不明だった男を夫としてどう理解していけばいいのか……。

「希帆、こっちおいで」

電車が揺れ、混雑した車内でふらつく私を風雅が引き寄せた。腰に手を回し支える。

「ちょっと」
「希帆、つり革届かないもんね」
「届くわよ」

ちょっとギリギリだけど、というのは言わないでおく。
ここで背伸びでもしてつり革に掴まったら、また笑いを提供してしまうことになる。