「お腹減ってない? 機内食出た?」
「出た。食べた。お腹減ってない」

そのイケメンが、なついた犬みたいに私の周りをくるくる回っている状態である。周囲を歩く人は目を惹く風雅の容姿に注目し、隣にいる小柄で地味顔の私を見て「デコボココンビ。なんの組み合わせ?」という顔をする。私には慣れっこ。
スニーカーにジーンズ姿で、風雅の大きな歩幅に負けないように歩く。どう見ても私の方が足の回転数が多いけど。

「今日から希帆とふたり暮らしかぁ」
「残念ながらね」
「残念とか言わないでよ。冷たいんだから。……あ、待って、電話。部下だ」

風雅が出ようか逡巡しているので「出なさいよ」と促す。

「はいはい。駄目だよ、今日、奥さんを羽田に迎えに来てるんだから」

多忙の中、休みを取って私を迎えにきた風雅。そんなことしなくていいのに。あと、厳密にはまだ奥さんじゃない。

「うんうん、大丈夫。その件は、鈴木に任せたよ。俺はゴーサイン出してんの。今日はもう電話でないからね。よろしくー」

明るく言って風雅は電話を切り、私に向き直る。

「ごめんね、希帆。家庭には仕事のこと持ち込まないようにするから」
「お気遣いなくー」

風雅はいつ会ってもにこにこしているし、たいてい機嫌がいい。特に私といるときは、意識的に明るく振る舞っているようにも見える。