仮面夫婦の子作り事情~一途な御曹司は溢れる激愛を隠さない~

翌日の学校、風雅は上機嫌で寄ってきた。

『風雅、話は聞いた?』

私は背の高い彼を見上げて尋ねた。出会ってから二年、身長差は縮んでいない。私は二センチ伸びたけど、風雅も二センチ伸びたから。

『聞いた聞いた』
『ありえない話よね。風雅からお父さんに言ったほうがいいよ』
『なんで?』

風雅は心底不思議そうに尋ね返すのだ。この男は何を言っているのだろう。

『風雅だって、私が結婚相手じゃ嫌でしょう?』

声をひそめ、周囲に聞こえないように言った。

『俺は全然嫌じゃないよ』
『はぁ?』
『希帆は俺の理想だから』

理想……確かに以前、強くてたくましい子がいいとは言っていたけど、本気で婚約者に選ぶ?
まったくもって理解できない。

風雅は婚約に異存がない様子だったが、当然私は嫌だ。しかし、風雅から断ってくれない限り私たちの婚約は動かない。
風雅は私を女子とは見ていなかった。からかうのにちょうどいい相手、いっそ男友達くらいの扱いをしている。
だから風雅の魂胆は、いずれ婚約を破棄しても問題ない相手として了承したに違いない。婚約を言い出した父親のために都合のいい女と婚約しておこうと思ったのだ。そういうところのある男だ。
まあ、確かに私なら婚約を破棄したところで怒ったりしないけどね。
しかしこの男、さらに理解不能なことに私との婚約をオープンに周囲に明かしだしたのだ。

『俺と希帆、婚約したんだ』

誰にでもそんなことをいうので、私は風雅のお守りから未来の女房に格上げされた。
クラスメイトは冷やかすより納得の様子。まあ、あの風雅を御せるのは沢渡しかいないかという目。風雅を狙う女子たちからは敵意丸出しの視線を浴び、迷惑この上ない。