「さて、同居の記念にごはんでも食べに行こうか」
「疲れたから寝たい」
「あ、じゃあ希帆が寝てる間に、何か作ろうか? 俺、料理得意だよ」
「なにそれ、怖い。重い。……やっぱり外に食べに行く」
「希帆の好きなものって何かなぁ。高校時代は甘いものばっかり食べてたイメージだよね。パフェの専門店行く?」
「そんな夕飯ヤダ……」

もうすっかり上機嫌に戻った風雅の後について、私は外に出た。
風雅は意味不明だ。あの頃から変わりなく。

私を好きだなんて言っているけど、風雅はたぶん結婚そのものが面倒事なのだろう。
病がちなお父様を安心させたくて、十年前私と婚約した。今度は結婚。
相手として沢渡希帆が適当な人材だっただけ。
それが長男であり、いずれ榮西グループという巨大な企業体の総帥の座につく男の考え。
私たちの間に愛情がいらないということは、風雅が一番よくわかっているはず。

仮面夫婦でいいじゃない。
私はそのつもりで帰国してきたのだから。




……それから数時間後、私は風雅にベッドに押し倒され、子作りを要求されたわけなんだけど。

急転直下の初夜、「子作り禁止!」と風雅を拒否して私はリビングに飛び出した。
心臓がばくんばくんいっている。
まずい、くらくらする。落ち着け落ち着けと、大きく深呼吸。ウォーターサーバーから水を出して、ぐびぐび飲み干した。


あの男、私のこと、本当に好きなの?
そもそも、女として見ていたの?
赤ちゃんを作ろうって本気なの?



「希帆、ごめーん。俺がソファで寝るから、こっちで寝ていいよ~」

風雅の呑気な声が寝室から聞こえた。