愛を伝え合ってからの風雅は甘さ十割増しだ。私が拒否しなくなったから、持て余していた愛情をガンガンぶつけてくる。

「風雅が行きたいなら、これからどこへでも付き合うわよ。地球の裏側とか、秘境とか」
「頼もしいなあ、希帆は」

風雅が私の手に自らの手を絡めてくる。長い指が私の手の甲を撫でる。そんな仕草ひとつに愛情が溢れていて、まだ嬉しいより面映ゆい。
遠い海を眺めて、風雅が言う。

「俺ね、希帆といると無限の未来が見える気がするんだ。希帆の元気さが眩しくて、ずっと先まで照らしてくれるみたいに感じる」
「私は風雅といると、毎日忙しくて未来見てる暇ないわよ」
「ええ? 俺、今いいこと言おうとしてるのに、水さされたぁ」

風雅が情けない声をあげるので、私はふっと笑顔を返す。そんなふうに言ってくれる風雅がいとおしい。

置いていったりしない。あなたはひとりじゃない。
距離を取らなくても、遠慮しなくてもいい。
何が会っても、どんなあなたでも、私は隣にいる。

そんな気持ちを伝えたかった。ひとりで立っているこの男と、同じものを見ることはできないかもしれない。
だけど寄り添うことはできる。そして、彼は私に未来を見ている。
私たち、高校時代から何も変わらないようで、きちんと進化してるね。

「ずっとずっと一緒にいよう。私、風雅から離れないから」
「うん。俺も希帆から離れない」

風雅が顔を近づけ耳打ちする。

「あのね、子作り解禁は嬉しいんだけど、赤ちゃんはもう少し先でもいいよ」
「そうね。あと何年か風雅だけを甘やかしてからにするわ」

答えると頬にキスされた。
広い空に雲がたなびき、日本では見ない鳥が横切るように飛んだ。私は風雅の大きな手を握り返し、その腕にそっと寄り添った。




(おしまい)



※ここまでお読みいただきありがとうございました。
2021.7.23 砂川雨路