「ふたりのとき、色々言われたでしょ。好きじゃないなら身を引けとか、CEOの妻には向かないとか」
「言われた」
「俺が裏切者に引導を渡してる現場に連れてくるとか悪趣味だよね。まあ、それで希帆が逃げるなら仕方ないと思ってやってたんじゃない?」
「私がどんな風雅でも一緒にいられるか見てたってこと?」
「あと、希帆は逆境で燃えるタイプだもんね。見抜かれて煽られてるよ。そういうとこあるんだ、あいつ。俺とは違った角度でタチが悪い」

私は優雅さんに試されていたらしい。さらには煽られて風雅と……これって彼の思うつぼだったんじゃ……。
風雅がスマホを取り出して、画面を見せる。

「ほら、メッセージ入ってる」

液晶画面には優雅さんから風雅へのメッセージが映っていた。

【希帆さんは本当に可愛い女性ですね。
つくづく兄さんとは趣味が合うなと思いました。
お幸せに。】

これは、完全にこの結末まで読まれているとしか思えない。
私は悔しいやら恥ずかしいやらで、どんぶりを持ったまま「うう」と唸った。まんまと恋心を自覚して、風雅と結ばれてしまったじゃない。

「希帆ー、俺はこの件、何もしてないからね。でも、希帆と両想いになれて嬉しいな」
「わかってるわよ……。私も、風雅とちゃんと夫婦になれて嬉しい。好きだって気持ちに気づけてよかったと思ってる」

私は食器を置き、椅子の上で背筋を伸ばした。眉を張り、膝の上で拳を硬く握って、勢いよく頭を下げる。

「あらためましてふつつかな女ですが、これから先も末永くよろしくね!」