「私は風雅のこと、クラスメイト以上には見られない。その……子どもを産むとか、考えられないのよ」
「それって、希帆は俺に他所で子どもを作ってらっしゃーいって言いたいの?」
「うーん、愛人を持っていいってわけじゃなくて、むしろ、風雅が他に好きな女性を見つけてその人と結婚してくれるのが一番いいんだけど」

この件については婚約中も何度も言ってきた。私じゃなくて他にいい人を見つけなさい。いつでも婚約破棄してあげる、と。
しかし、十年間風雅はまったくそういった女性を見つけなかったようだ。そりゃ、私のいない日本で遊ぶ女性は何人でも見繕えるでしょうけど、結婚を考えられる女性はいなかったのかな。ちゃんと探せば、絶対に条件のいい女性が見つかるでしょう。
風雅がにこにこしているだけなので、私は困って言葉を重ねる。

「たとえば、あなたの弟は? 後継者に……」
「あー、あいつは今別の会社にいるんだ。親父の友達の会社。もしかすると、そこの跡継ぎになっちゃうかも」
「ええ? それじゃ、親戚で他に後継者候補は……」
「榮西はじいさんが興した会社で親父はひとりっこ。俺を支える部下たちはみんな他人。一族経営を崩せば、後継者はいくらでも」

一族経営を、私の一存だけで崩せる? やっぱり風雅には後継者を産んでくれるお嫁さんが必要なのでは?
風雅がこの時だけ、ちょっと眉を寄せて困ったように笑った。

「俺は希帆に産んでほしいけど、跡継ぎ」
「私は……」
「俺は希帆とソウイウコトできるよ。したいと思ってる」

見上げてくる風雅は、言葉の内容とはまったく無縁の無邪気な表情。
絶対、またいつもの軽口だ。