私は慌てて物陰に隠れ、様子を見る。
早瀬さんは口を噤んだまま直立不動。
相手の男子は何か熱く訴えてるけど、早瀬さんは横に首を振るだけ。
そして、頭を下げながら「ごめんなさい」と謝っていた。
相手の男子生徒は諦めたらしく、離れて立ち去っていった。
物陰から一部始終を見ていた私に気づいてたのか、早瀬さんが声をかけてくる。
「宇佐さん、もういいわよ」
気まずそうに姿を表した私の顔を見て、早瀬さんは溜息をついてる。
「ごめんなさい早瀬さん、覗き見する気はなかったの……」
「いいのよ宇佐さん、予定より相手がしつこかっただけなので」
「告白されて、断ったのかな……」
「そうよ。好きな人がいるから、しかたないわよね」
告白をクールに断る早瀬さんだけど、好きな人がいるんだからしかたない。
誰なのか興味はあるけど、私たちは恋愛の話をするほど親しい仲じゃない。
長い黒髪に手串を入れながら、口を噤んでいた早瀬さん。
目を細めて溜息をついた後、思ってもいなかったことを話し始めた……
「宇佐さんて、瀬戸先輩と同級生なんでしょ……」