少女は小さな力を持っていた。その力を意図して使えるようになったのは五歳くらいだっただろうか。

 ある日水道から流れる水におもむろに手を掲げ小さな力を放った。水道から流れていた水は止まる。

 生後間もない頃は意図せず力を使うことがほとんどだった。脳の発達もしていないし、指先だってまだしっかりと動かない赤子の頃だ。年に一回程度の事だったし、どの能力を取り込んだのかも解っていなかった。

 テーブルから落ちそうになったおもちゃが一瞬停止した時は物を操る能力なのかと思った。

 キッチンで跳ね返った水が部分的に一瞬球体になった時は水を操る能力なのかと思った。

 握ったカーテンの形が数秒間固まったままになった時は、違和感を覚えた。

 幼いころから能力を発する子供は少なからず居る。この子も少し力が強いのかもしれない。そう思う程度だった。

 手を掲げて止まった水道水は二秒ほど経ってから勢いよく噴き出した。蛇口が大きく揺れて、爆発音にも似た音を立てながら。

 その時キッチンで作業をしていた少女の母親は確信したのだという。


 この子は物質を操る能力を持っているわけではない。時を操る能力を取り込んだのだと。

 すぐに記録を調べた。専門分野の権威に相談し調査もした。間違いなかった。

 時を操ることが出来たとしても、自分以外の世界を止めることなど出来ない。せいぜい動く物質の時を止めるくらいだ。しかしその物質の動くはずだった時が永遠に止まるわけではない。