「先生!先生!」


 翔と翼が二人に分かれた時、病室に来ていた母親もその瞬間を見ていた。

 順番に二人を抱きしめながら必死に医師を呼んだ。翼がナースコールを押し、すぐに看護師が駆けつける。

 体に問題がないことを確認してから二人はすぐに診察室へ移動する。
 その間母親はずっと涙を流して二人を抱きしめていた。

 ここ最近の記録を見ながら医師は言う。

「二人が家を出て生活をし始めてから一気に状況が変わっているのが解るので、家族との何かが特殊能力と関係していると言っていいと思う。親からの愛情も関係していたのかもしれない」

 母体に居るときから母親の愛は変わっていない。産まれてからも両親から愛情を十分に注がれてずっと愛に包まれていたのだろう。

 それが家族以外の人の温もりや愛情を知り、それを体感することにより両親以外からの愛情を受け止めようと覆っていた膜を取り払おうとした結果かもしれない。

 両親の愛情が深く、二人の生活環境も相まって、両親以外の人からの愛情に気付くのが遅くなってしまっていたのだろうと医師は予想した。

「過保護だったのでしょうか?」
 母親の言葉に医師は首を振る。

「ご両親からの愛情がなければ、二人の精神状態はもっと悲惨なものになっていたでしょう。愛情を注いだお陰で二人はここにたどり着くことが出来たんですよ」