能力に取り込まれた人間なんか興味の対象でしかない。興味本位で眺めに来て、勝手に怯えて勝手に逃げていくだけだ。その為彼らは外に出ることが少ない。

 翼が体勢を変えてソファの上で仰向けになる。その指はスマートフォンの画面をなぞり続けている。左側に頭を向けている翔は翼が動いたことを気にも留めていない。というより翼の姿は認識できない。

 翔が読んでいた本のページをめくった。その手が紙をめくる一秒か二秒か、翼の姿が認識できなくなった。

 翔が動けば翔が他人に認識される。
 翼が動けば翼が他人に認識される。

 食事の際に箸を動かせば翔が映り、食事の際に箸を動かせば翼が映る。

 幽霊が覆いかぶさるように、ソファの上で彼らの身体は被っている。


 二つの身体に二つの人格。能力に取り込まれた同じ時を生きる双子。彼らは二つで二つ。二つで一つ。



 その身体が離れることは許されない。



 幼少の頃から様々な検査を受けてきた。双子の特殊能力は不明だ。物を操ることが出来るわけでもないし、何かを作り出すことが出来るわけでもない。

 一体何の検査をしているのかなんて判らなかった。ただ決まった日にどこかに連れていかれて一日言われるがままに採血をしたり定期的に健康診断をしたり大がかりな検査をしたりしている。

 それが彼らのルーティンとなり二十二年が経つ。