その日はいつもと変わらない一日から始まった。
 起床して、朝食の準備をして。
 みんなと一緒に朝食を食べて。
 片づけをして。
 洗濯ものを洗って、干して…。
 掃除をしたかと思えば、すぐに昼食の準備をして・・・。
 この施設で一番若い1歳の坊やの面倒を交代でする。
 初めて赤ちゃんを抱っこしたときは、恐ろしくて手が震えた。
 初めての赤ちゃんは触ったら壊れてしまいそうだったから。

 坊やを抱っこしていると、この施設で先輩のレオさんに「慣れたわねー」と笑われる。
 レオさんは坊やの顔をのぞき込む。
「ここに来た時は抱っこするのが怖いって言っていたのに」
「さすがに…一年経てば慣れました」
 レオさんはこの施設出身で、園長が引退した後の跡取り候補として働いている。
 施設で働いているのは、私とライト先生、そしてレオさんと園長の4人だ。

 女性だけどサバサバした性格で、物怖じしない性格のレオさんは男の子たちから人気がある。
「そういえば、ライト先生は? 往診?」
「…さあ? 私は見てないですけど」
 眠った坊やをベッドにそっと寝かせる。
 レオさんは、じぃと至近距離で私の顔を見る。
「ほんと、似てないね。ライト先生と」
「…そうですか?」
 実際、血のつながりがないんだから、似てないのは当たり前だろう。
 とぼけたふりをする。
「あたしは、あの人の考えることがわかんないよ。美形なのに勿体ない」
「…私も、…妹の私ですら兄の考えていることがわかりません」
 うっすらと感じ取れるのは。
 レオさんはライト先生に気があるということ。
 暇さえあれば、ライト先生に対する質問攻めにあってしまう。
「掃除してきまーす」
 ボロが出る前に、レオさんから逃げ出す。
 ライト先生情報なんぞ、わかるわけがない。

 外に出て、箒片手に空を見上げた。
 モヤモヤとした気持ちはいつになったら晴れるのだろうか。