Your PrincessⅡ

 毎日、くたくたになってベッドに潜り込むが。
 頭の中ではいつでも、此処を抜け出して家族に会うことだけを考えるだけの毎日だ。
 渚は深くため息をつくと。
「おいっ、03番」
 といきなり、低い声でタイラが枕元に立ったので渚はイラッとした。
 もう消灯時間だ。
 騒いでいるとすぐに見張りの者がやってきて怒られてしまう。
 それでもタイラは寝る前になると、渚をからかう癖がある。
 誰よりも泣き虫な渚に対して寝る前に怖い話をしてくるのだ。
「俺、もう寝たいんだよ」
 力なく言うと、タイラはニヤリと笑った。
「おい、外に出られるチャンスが出来たぞ」
 え? と声を漏らす前に。
 二段ベッドの上段にいたキョンとマオが同時に声を漏らした。
「どういうこと?」
 声を潜めて渚が言う。
「先輩方に聴いたんだよ。卒業試験は野外試験なんだってさ」
「…タイラっていつ、先輩と話しているんだ?」
 先輩方とは話す機会なんて一切与えられていないはずなのに。
 タイラはちょいちょい、先輩から聴いた話というのを披露する。
「それは、秘密だ」
 自信満々に言うタイラに渚は、どうせ嘘なんだろうなあと思った。
「いや、信じろよ。マツも言ってたんだから」
 渚を見てタイラがすぐに突っ込む。

「先生が言っていたならば、信憑性は高いね」
 冷静にマオが言うので、渚は頷いた。タイラが言うならば嘘臭いが、マオが言うならば真実っぽく感じる。

「でもさ、卒業試験なんてあと4年はあるんじゃないの?」

 渚の一言にタイラは「はぁ!?」と声を出して、慌てて口元をおさえた。
 ドアに注目したが、看守は気づいていないようだ。
「03番はどれだけ、学校について知らないんだよ」
 呆れたようにタイラが言う。
「マリク。騎士団学校っていうのは、少年騎士団と青年騎士団の2部制で。あと一年したら別の校舎に移動になるんだよ」
「え、そうなの?」
 キョンの説明にタイラを見ると「何で知らないんだよ」と睨まれた。

「あと一年すれば卒業試験で外に出られる。その時を狙って逃げるしかねえ」
「あと一年もあるのかあ…」
 一日があまりにも長く感じるというのに、あと一年。
 渚が気が遠くなるのを感じた。
「卒業試験ってさ、ただ外に出るわけじゃないだろ?」
 マオが鋭い指摘をする。
「そりゃそうだ。先輩の話によれば、先輩と戦うらしいぜ」
「どういうこと???」
 タイラの話に渚は首を傾げる。
「俺達が3年生になったら、青年騎士団の人達と戦うってことだ」
「…そんなの無理に決まってるじゃないか」
 渚が即答すると、「馬鹿かおまえ」と言ってタイラは渚を睨みつけた。
「無理だろうが何だろうが、やるしかねえんだよ。逃げ出すチャンスはそこしかない」
「…タイラも逃げ出したいの?」
 タイラの気迫におされて渚は、ぐすんと涙目になってしまう。
 タイラは目をそらした。
「ばあちゃんが病気になったんだってさ」
「タイラのおばあちゃんが?」
 かつて、タイラは両親に売られたと言っていた。
 ずっと両親ではなく、祖母と一緒に暮らしていたというのを渚は思い出した。
「卒業する頃には、ばあちゃんはこの世にいないかもしれねえ。だから、生きているうちに会っておきたいんだ」
「…そっか」
「強くなるしかないんだよ」