Your PrincessⅡ

 渚の脱出計画は失敗に終わり、キョンと共に校庭の隅で一日貼り付けにされた後、
 渚とキョンは寝泊まりしている部屋の移動を命じられた。
 隣に看守の休憩所がある部屋になってしまったのだ。
 更に2人部屋だとまた、脱走する恐れがあるとまで言われ。
 ルームメンバーを2人から4人へと変えられた。

 キョン以外に加わった2人は同じクラスメートで、
 007番と012番だった。
 日常では本名で呼ばれることはなく番号で呼ばれるので2人の本名を知らなかったが、ルームメイトとなった夜。自己紹介をされて知ることになる。
 007番は、タイラと名乗った。
「俺は、親に売られたんだぜ」
 と平気で言いのけるので、渚は「ええ!?」と絶叫した。
 タイラは両親から育児放棄を受け、祖母に引き取られて育ったが、生活は貧乏を極め、ある日父親に連れ去られ、この少年騎士団にやって来たと平然と言いのけたから驚きだ。

 タイラは、あっさりとした性格で人懐っこいのが売りであった。すぐに誰とでも仲良くなることが出来た為、クラスで一番の情報通だと自分で言ってのけた。

 012番は、マオと名乗った。
「僕は、自分から此処に来た」
 青白い顔でマオは言った。何故、この少年騎士団に来たかと尋ねると、
「お腹いっぱいご飯が食べられるから」
 とだけ言った。
 それを聴いた渚は、ぞっとした。
 マオは成績優秀で、運動神経も良かった。
 賢いが、それを鼻にかけることはなく誰にでも優しかった。

 ルームメイトが4人になり、監視が強化されて。
 毎日、窮屈な思いをしながら渚は毎日を過ごしていた。
 一度、脱出を失敗した以上、変な動きをすればすぐに見つかって丸太に(くく)り付けられる。それが、毎回決まって連帯責任になるので、流石に渚は諦め始めた。

 渚はルールを逸脱すると常に丸太に括り付けられているが他のクラスメートは皆、真面目に勉学に励んでいるのだろうかと考えていた。
 ある日、クラスメイトの1人が教室に現れなくなった。
 具合でも悪いのだろうか…ぐらいに思っていたところ、タイラがこっそりと耳打ちした。
「脱走した際に始末されたんだってさ」
 しまつ?
 渚がどういう意味かと質問すると。タイラはニヤッと笑って。
「そんなもん、コレだろ」
 と言って、お腹を刺されるようなジェスチャーをしたので、渚は「ぎゃあ」と泣いた。

「だいたい、03番。おめえは特別扱いなんだよ。フツーだったら殺されてるんだよ」
 遠慮せずにズバズバと物事を言うタイラに最初は戸惑ったが。
 確かに自分が受ける罰は甘いのかなと思ってしまう。
「おまえも、02番も珍しい一族なんだろ? 噂じゃ、殺すんじゃなくて闇ルートで売りさばくって話だぜ」
「…闇ルートって何だよお」
 タイラの恐ろしい言葉に渚は泣いた。
 泣いて震える渚を見て、タイラは大笑いした。
 側で聴いていたキョン(002番)とマオは苦笑いしている。

 そんな感じで、あっという間に一年が経とうとしていた。
 月に一度、家族との手紙のやりとりが許されていると担任のマツが言っていて。
 仕方なく、渚は手紙を書いた。
 母親が生きていると仮定して書いた手紙には、短く「元気ですか?」とだけ書いた。
 返事は一ヵ月後に届いた。
 母親と名乗る人は、きちんと海の一族の言葉で「元気です」と言って近況を書いてくれた。
 母の字であったし、そこには姉たちもナンも一緒に暮らしていると書いてあるが。
 本当に本人なのかが疑わしいと渚は感じていた。
 誰かが、母親のふりをして手紙を書くことだって出来るではないか。

「だったら、お母さんと自分との間でしか知らないことを書けばいいんじゃない?」
 キョンに相談すると、なるほどと渚は思った。
「しかも、わざと違うことを書くんだ。それで返事の中で指摘されたらマリクのお母さんってことは間違いないだろ?」
「…お母さんとの秘密かあ」
 渚は考えた末、家で飼っていたオウムのことを書くことにした。

 渚の家では、赤いオウムを飼っていた。
 おかしな話だが、窓を開けていたら勝手に入ってきて住み着いたのだ。
「君は今日からノアちゃんね」
 母親がハイカラな名前を付けたが、渚は気にくわなかったので「モグちゃん」と勝手に名づけ、渚だけはオウムのことをモグちゃんと呼んでいた。

 渚は手紙に緑色のオウムを飼っていたこと。その子をお母さんはノラちゃんと呼んでいましたねと突っ込みどころ満載の内容で書いてみた。

 一月後、母親と名乗る人からの手紙には
「私が記憶している限りでは赤いオウムだったと思います。ノラちゃんじゃなくて、ノアちゃんですよ。あなたはその呼び名を気にくわないって言っていましたね」
 手紙を読んで、渚は母親であることを確信した。
 母と姉たちは生きているのだ。

 手紙によれば、場所は言うことを許されないのだが。とある場所で服を作る仕事をしながら姉2人とナンの4人で暮らしているのだという。
 看守付きで行くところは限られているが、それでも奴隷扱いはされていないとだけ書かれていた。

 オババのことは一切書かれていなかったので。
 殺されたのかと渚は悟った。

 未だに、国家騎士団が海の一族を襲ったのかが理解できない。
 考えても仕方のないことだが、渚はいつか復讐をしてやりたいと思うようになっていた。