オババの家に行くと、一族で唯一の同い年であるナンが服を縫っていた。
 ナンは両親が2人とも出稼ぎに出て行ってしまった為、オババの家にお世話になっている。

 唯一の同い年だから。
 という、それだけの理由で、ナンは渚の許嫁となった。
 小さい頃は意識していなかったが、
 年頃になった渚にとって、ナンの存在が恥ずかしいと感じるようになっていた。
「あれ、オババは?」
 何で一人でいるかなと思いながらも、渚はゴロンと寝転がる。
「マリクはまた、サボり?」
 静かに笑うナンに、「うるせえ」と渚は怒鳴った。

 渚という名前は、後々に付けられた名前で。
 本名は、マリクと言う。
「また、お母さんと喧嘩したの? 声がこっちまで聴こえてたよ」
「別にいいだろ」
 本来ならば、漁に出ている時間だが。
 渚は口を尖らせてナンを睨んだ。

「なんだい、またマリクは遊びに来たのかい?」
 杖をついて部屋に入ってきたのはオババだった。
「オババ、またマリクがサボってんだよ」
 とオババに告げ口するナンに「うっさい」と渚は怒る。
「そういう時期だってあるだろう」
 そう言って、オババはしわくちゃの顔で頷いた。
 どういうわけか、オババは渚に激甘対応をしていた。
 かつて、厳しく育てたオババの子供たちはオババに反抗して出て行ってしまったのが原因じゃないかと言われている。
 理由は定かではないが、オババは一度だって渚に対して怒ったことがないのだ。
 それを良いことに渚は、家族と喧嘩をするとすぐにオババの家に来ていた。

「姉ちゃんも母ちゃんも、俺が男だからしっかりしろってうるさい…」
 毎日のように愚痴をこぼしている渚に対して、オババは黙って頷いた後。
「今はわからんだろうけど、いつか大人になったら分かる日が来るさ」
 と言ってオババは慰めてくれるのだった。