ローズは、暗殺者として人を殺すだけの教育を受けてきた。
 この国で一番強い男になることを余儀なくされていた。

 城から離れ、過酷な訓練を毎日受けることになった。
 武術、剣術は勿論、拳銃などの使い方を習った。
 王子様とはいえ、失敗すればすぐに大人に殴られた。
「感情を殺しなさい」
 師匠と呼ぶ男に何度も注意された。

 国王である父親が命令した人物を殺害する日々。
 それ以外には、国外に出て戦士として戦うこともしばしば。
 幼少期に子供らしい生活など一度も与えられることはなかった。
 父親ではない、目の前に座っているのは国王だ。
 …ローズは、そう考えるようになった。

 6歳の時に母親が目の前で父親に殺されたのをはっきりと見たはずなのに。
 ローズの記憶は、別のものに塗り替えられていた。
 母が泣いている。
 父と自分の目の前で、母は見知らぬ男に殺された。
 その男は紫色の目をしていた。
 …そんなふうに。

 悪人として生きることを余儀なくされてから、
 ローズは何度も同じような夢を見るようになった。
 お花畑に自分は立っている。
 側にいるのは、同い年ぐらいの女の子だった。
 どういうわけか、日常生活ではモノクロの視界なのに、
 夢には色がついていて女の子は青い目をしていた。
「おまえの名前は?」と質問すると、
 女の子は、「蘭」と名乗った。
 直感的に、ローズは彼女を妹ではないかと考えた。
「蘭って名前、いい名前だな。俺と交換しろ」
 命令口調で言うと、女の子は「うん、いいよ」と頷いた。

 夢を見るたびに、蘭と花畑で遊んでいた。
 ある日、見知らぬ少女が目の前に現れた。
 少女の顔を見た時、ローズはなんて醜い顔をした人間なのだろうと思った。
 目の下から顎にかけて薄い緑色の痣をしている。
 ボッサボサの茶色の髪の毛でドレスを着て歌を歌っている。
 ローズがイラッとしたのは、痣だけではない。
 瞳の色が紫色だというのも気にくわなかった。

 ローズは立ち上がるとその少女に近寄った。
「おまえ、気持ち悪いな」