ローズから奪われたものは、色だった。
 母親が目の前で殺されてから、
 ローズの視界はモノクロになった。

 国王は、ローズを悪人として育てることを余儀なくされた。
 女神との契約は完了してしまったからだ。
 もう、後戻りは出来なかった。

 悪人は、国の悪いものを排除する存在として活躍する。
 ローズは国にとって都合の悪い人間を殺す役割を担った。
 王子でありながら、暗殺者となった。

 この国を平和に保つためには、
 悪者を排除する必要があった。
 次期、国王と約束され女神と契約してからは、
 ローズは、健康を与えられ、簡単には死なない身体になった。

 国王が誰を悪人にするか、誰を善人にするかは選ぶことが出来ない。
 決めるのは、女神だという。
 ソテツの兄が即位する際、特に王位継承を巡ってトラブルがなかったので神殿に行くことも、女神に祈ることさえもしなかった。
 古い伝統やしきたりを気にする臣下たちの言うことを、ソテツの兄やその息子は「迷信だ」と言い捨てて、気にすることはなかった。
 だが、2人が同時に戦争で亡くなった際、臣下たちの何人かは「女神の怒りだ」と囁いた。

 ソテツの父は10人兄弟で、親族が沢山いた。王位継承を巡って何人かが命を落としたという噂を聞く。血生臭い生活がぴたっとやんだのは、女神の使いという男が現れたからだ。
 その男は、紫色の瞳の持ち主で年は20代くらいだろうか。小柄で、白い服を着て自由に城を歩き回る男だった。

 その男が50年の月日を得て、再び城に現れた。