ローズと蘭の父親が王位を継いだのは、60歳近くになってからだ。
 父親は、ソテツという呼び名だった。
 ソテツは、当初、王位を継ぐ予定ではなかった。
 末っ子だったので、兄が国王を継承し、
 兄の息子が次期国王だったからだ。
 その兄と甥の2人が戦争で命を落とした。
 その為に、年を取ってから王位を継承したのである。

 ソテツは独身であった。
 国王になる者は代々、他国から嫁をもらうという風習があった為、
 ソテツは、隣国から花嫁を迎え入れた。
 花嫁はまだ16歳。
 祖父と孫娘くらいの年の差であった。

 ソテツは、16歳の妻を愛することが出来なかった。
 我儘で会話が噛み合わない彼女と一緒にいるのは苦痛だった。
 だが、妻の方はこの国の妃として、しっかりと務めを果たそうとしていた。
 国王への愛はなかった。
 自分は、ここで妃として立派に生きていければいいと考えていたからだ。

 幼い妃は、嫁いでから王族を一人ずつ殺害していった。
 当初は、不慮の事故・病気で片付けられていたが、
 ソテツはすぐに、妃の仕業だということに気づいた。
 もしかすると、妃は自分を殺してこの城を、この国を乗っ取るのだろうか。
 ぞっとするような考えが頭に浮かんでは消えた。

 一年後、妃は男の子を生んだ。
 妃そっくりの男の子だった。
 ぎょろっとした青い目を見て、ソテツは自分にちっとも似ていないなと感じた。

 子供の呼び名は、ローズと名付けられた。
 ローズは、生まれつき身体が弱く何度も死にかけた。
 医者に言われたのは「20歳まで生きられるかわかりません」という残酷なものだった。
 妃は嘆き、怒り苦しんだ。
 ソテツはそんな妃と一緒にいることで、次第に精神を病んでしまい、城を空けることが多くなった。
 妃がモンスターにしか見えないのだ。
 その頃、療養として訪れたリゾートホテルで知り合ったのが蘭の母だった。

 ローズが生まれてから2年後。
 妃は第二子を生んだ。
 男の子だった。
 次男はローズと違って健康に生まれ育った。
 妃は一安心した。
 だが、それもほんの束の間だった。
 次男が4歳の時に原因不明の高熱でうなされ、亡くなったからだ。