兄であるアズマは、3年前まで蘭の護衛だった。
 蘭を庇ったお兄様は、生死不明の重体で病院にいたはずなのに。
 ある日、姿を消した。
 私は、いつかお兄様に会えると期待していた。
 それと同時に、微かだけど。
 お兄様は亡くなってしまったのではないかという不安があった。

 ずっと、再会を望んでいたはずのお兄様が、
 目の前に現れ。
 しかも、ここは神殿だ。
 何日も時間をかけて辿り着いた神殿に、どうしてお兄様がいるのかわからない。
「この神殿は何のためにあるか知ってる?」
 お兄様は立ち上がると、私の側に近寄ってくる。
「…蘭が跡を継ぐための儀式だって」
「うーん。跡を継ぐのは、ローズくんのほうなんだけどね」
 そう言って、お兄様はローズさんを見る。
 ローズさんは怖い顔でお兄様を睨みつけている。

「カレン、ここは王族と女神しか立ち入れない神殿なんだ」

 お兄様が私の顎を持ち上げて、笑った。
 お兄様の手はぞっとするほど冷たかった。
「王族・・・」
「そっ。ここまで言えば、王族は誰かわかるよね?」
 お兄様が手を離して、ある人に視線を送った。
 ローズさんを見ている。

「彼は、次期ティルレット国王。そんで、第二王子というのが蘭だよ」