アームストロング男爵。
 貴族の中でも身分は低いとはいえ、サクラの祖父は王様の命を救ったということで一躍、有名人となった。
 サクラの父は、製薬会社を立ち上げて、国の50%を占める普及率で薬を広めた。
 身分は男爵とはいえ、羽振りが良かったのは事実だ。
 サクラの母は、平民出身だった。
 貴族としての生活に憧れを抱いていた母は、どういう手を使ったのかはわからないが、父と出会って結婚した。
 彼女はよく、友人にこぼしていたという会話がある。
「本当は王族と結婚したかったわ。でも、無理でしょ? だから、せめて伯爵と結婚したかった。最終的には夫で、妥協したのよ」

 母は、小さい頃から憧れていた舞踏会デビューを果たし、
 高価なドレスに身を包み、宝石を眺めながらうっとりとした生活を送っていた。
 後に、息子と娘をもうけたのだが、子育てには一切関与しない人だった。

「君が好きなことをするのは構わないけど、跡取りのことはちゃんと考えてほしいな」
 と父は言った。
「君が跡取りを作って立派に育てないならば、僕は君と別れて他の女性と結婚するまでた」
 あざ笑うかのように、父は母に向かって言った。
 母は、今の生活を失うことを極端に恐れていた。
 だから、長男であるサクラを厳しく育てることに決めたのだ。