シュロさんにバックハグされる形で夜明けまで過ごすことになった。
 最初は緊張して身体に力を入れていたけれども。
 シュロさんが「寄りかかって大丈夫ですよ」と言ってきたので、
 遠慮なくシュロさんに寄りかかった。
 シュロさんは温かい。
 羽交い絞めはされることなく、シュロさんは私の腕をつかんで上下にさすった。
 カチカチになっていた身体は次第にほぐれていく。
 きっと、後ろにいるのが他の人間だったら、こんな状態になるのは無理だったと思う。
 シュロさんの雰囲気というか…癒し系なのかなあ?
 安心して、寄りかかることが出来た。
 嫌らしい感情はお互いなかった。

 こんな姿、蘭に見られたら殺されるんじゃないかと思ったけど。
 命をつなぐ為だと言って聞かせる。
 それに、シュロさんや蘭は騎士団だ。
 こういった緊急事態のときに何をすればいいかってわかっているはず。

「先に言っておきますが、もし朝になって俺が寝てたら逃げてくださいね」
「…何で、そんなこと言うんですか?」
「俺に聞かれてもわかりません」
 何だそりゃと思ったが、
 そうだ、シュロさんは記憶がリセットされてしまうんだった。
「カレンさん、見てください」
 そう言って気を(まぎ)らわすように、シュロさんが空を指さす。
 一面に広がる星空に、「うわぁ」と感嘆の声を漏らす。
 なんて美しい星の数々だろうか。
 初めて見る美しさに目を放せない。
「俺の実家も、星が良く見えたもんです」
「シュロさんの実家ってどこにあるんですか?」
「俺の実家は、首都から見て北東部にある農村です」
「…やっぱり、平民でしたか」
 と失礼なことを口に出してしまったが、シュロさんは何も言ってこなかった。

 もしかしたら、今夜はチャンスかと思い、
 シュロさんの顔をのぞき込む。
「シュロさん、シュロさんの小さい頃の話から現在までの思い出話をしてくれませんか?」
「えっ…俺。記憶が馬鹿らしいから覚えてないんですよ」
「大丈夫です。16年間で覚えていることだけでいいので、話してくれませんか?」
 シュロさんの記憶は16歳のときで止まっている。
 それでも、思い出話を聞きたいと思った。