サクラは一体、何を企んでいるのだろう?
 二人きりになったかと思うと、
 蘭は無言で私の隣に座ってきた。

 目の前で炎がユラユラと揺れて。
 急に静かになったものだから、一気に緊張してくる。

「おまえ、クリスのことが気になるのか?」

 蘭の質問の意味がわからず、10秒ほど黙った後、
「何言ってんの?」
 と蘭の顔を睨んだ。
 闇を背景にしているとはいえ、
 蘭の整った顔は美しい。
 彫の深い目・鼻・口は全てをパーフェクトだと物語っている。
 そんな横顔に見とれながらも。
 とんでもない発言をしてきた蘭に、コイツ大丈夫かと思った。
「俺じゃなくて、クリスのことが気になるのか?」
 じっと、蘭が私を見る。
 その目で見つめられたくない。
 そんな質問してほしくない。
 サクラの言う通り、コイツはデリカシーがない。
 奥さんにそんな質問しますかね?
「……」
 だんだん腹が立ってきた。
「クリスと話してるとき、おまえ。滅茶苦茶嬉しそうな顔するよな」
「…蘭、どうしたの」
 ブルブルと震える感情をおさえながらも。
 冷静にならなきゃと考える。
「この島に来てから、変だよ?」
 朝から独り言を喚いて、うるさいし。
 勝手に一人でずんずん進んじゃうし。
 かと言って、私とクリスさんが喋っていると怒るし…。
「おまえ、俺と全然。話さないじゃないか」
 …はぁ?

 噛み合わない会話に泣きそうになる。
 じっと蘭を見ていると。
 どういうわけか、蘭の腕をつかみたいという衝動が沸き立つ。
 腕をつかんで。
「違うからっ」と言いたかった。

 手を伸ばしかけると、「おいっ」と怒った声で蘭が離れた。
 別に、
 その言動に対して、蘭は何一つ悪くなかった。
 でも。
 自分の中で、
 何かがポキッと折れたんだ。

「どうして、そんなに心配だったら。迎えに来なかったの?」
 我慢の限界で涙が溢れる。
「約束したよね…、一年前。迎えに行くからって」
「俺だって迎えに行きたかった」
「でも、来なかったでしょ?」
 立ち上がって、蘭を見下ろす。
「ごめん、顔洗ってくる」
 泣くな…と思っても。
 涙が馬鹿みたいに出てきた。
「おい、待て」
「すぐ戻るから。心配しないで。顔を洗わせてください」
 一人になりたかった。
 今頃になって、迎えに来なかったくせにというムカついた感情が支配する。
 …一緒にいたら駄目だ。

 おかしいよね。
 夫婦なのに、指一本触れることが出来なくて。
 一年ぶりに会ったら。
 余計に、蘭に触れたいって思ってしまう。
 近寄れば近寄るほど、蘭に触りたいって思ってしまう。
 暗闇を歩いているうちに、視界がぼやけてきた。
「危ないっ」
 と、誰かの声がしたと思った瞬間。
 ぐらっと身体が傾いた。
 身体がふわりと宙に浮いたと思うと。
 一気に地面へと落ちていく。