蘭と一緒に暮らすようになって数か月。
 一人が好きなくせに、蘭は夕食と朝食はクリスたちと一緒に食べていた。
 アズマがこっそりと「皆で食べるのが好きなんですよ」と教えてくれた。
 とはいえ、蘭は上から目線で物事をガンガン言ってくるので。
 サクラはイライラが募っていたのだと思う。

 キッカケは何だったのかはわからないが、
 サクラが「ぎゃー」といきなり悲鳴をあげた。
 2階にいたクリスが慌てて下に降りると、サクラと蘭が言い争っている。
「私だって、好きでこんな身体になったわけじゃない」
「俺は別に文句を言っているわけじゃない」
「じゃあ、何でそうやって汚いものを見る目でいっつも接するわけ? 気持ち悪いって思ってるんでしょ」
「俺がいつ、おまえのこと汚い者だって言った?」
「あんたのその目つきが嫌い!」
「じゃあ、おまえの中途半端な女心が嫌いだ!」
 お互いの言っていることは無茶苦茶だった。
 かっとなったサクラは、グーで蘭の顔面をパンチをした。
 てっきり、クリスはよけるのだと思っていたが。
 蘭は、思いっきりサクラの拳を顔面に受けている。

「ぎゃーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
 と蘭は立ち上がった。
 蘭の悲鳴を聞いたアズマが慌てて駆け付ける。
「おまえ、今、俺に触ったな?」
 みるみる青ざめていく蘭であったが、「あれ?」と言って自分の両手を見た。
「何でだ?」
「まあまあ、二人とも落ち着いて」
 そう言って二人の中を取り持とうと、クリスが近寄る。
 その際、クリスの肩が蘭に微かに触れた。
「ほんと、ふざけんなクリス!!!」
 蘭は絶叫する。
 一部始終を見ていたであろう渚が、
「蘭、いい加減にしろよ」
 と大声を出した。
 いつもニコニコ笑っている渚が急に大声をあげたので、蘭はビックリしていた。
 だが、すぐに青ざめて口元を抑えて、二階へと上がって行った。

 一気に静まり返るダイニングルーム。
「どうして、蘭はクリスにだけ冷たいんだよ」
 と渚が涙目で言った。
 じっと黙っていたアズマが皆の前に立って言った。

「申し訳ありません。皆さま」

「アズマさんが謝ることじゃないわよ。あのお坊ちゃんが悪いんだから」
「そうだよ。今のは絶対に蘭が悪いんだから」
 身体を90度近く折り曲げて謝るアズマは頭を上げなかった。
「違うんです」
「違うって?」
「皆さまには、ずっと隠していたことがあるんです」