耳障りの言い言葉ばかりを口にする人には「同じ学生なんだ、身分など関係ない、仲よくしよう」と言う。
「ミリアが庶民だからと、随分と酷いことを言っていたようだな」
 ミリアとは、殿下にしつこいくらいまとわりついていた庶民の女生徒だ。
 酷いことなど何も言っていない。
 身分をわきまえなさいということ。これは差別ではなく区別だ。不敬として処罰される危険がある危険な行為なので忠告したまで。
 それからもう一つ。
 婚約者のいる男性にむやみに触れるものではないということ。これも淑女なら当たり前のことだ。もちろん婚約者のいない男性にも淑女たらんとすれば、触れるものではないのだが。誘っていると思われても仕方がない行為だ。彼女は庶民。貴族の子息の体に触れてしまえば、誘ったのはそっちだろうと無理に関係を持たされても申し開きできない。危険な行為だと自覚しなさいと忠告しただけ。
 たった2つのことだ。
 たった2つなのに、ミリアは理解できなかったのか、それともわざとなのか。何度忠告しても全く改善されなかった。
「理由はそれだけですか?」
 アンドリュー殿下が勝ち誇ったような顔を見せる。
「もう一つ、最大の理由がある」
 もったいつけた言い方をしているが、正直どうでもいい。ただ、陛下や父に報告するために情報が必要だと思ったから聞いているだけだ。
「お前より素敵な……かわいいミリアと婚約する。そのためにお前は邪魔なんだ」
 アンドリュー殿下の言葉に、殿下の後ろに隠れていたミリアがちょっとだけ顔を出して笑った。
 その目が「ざまぁ」と言っているように見えるのは気のせいだろうか。
「理由はそれだけなのですね?承知いたしました。陛下や父にはそのような理由で殿下が婚約破棄をしたとお伝えいたしましょう。もちろん私は快く了解した旨も伝えます。ただいまを持ちまして、私と殿下の婚約関係はなくなりました」